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大阪高等裁判所 昭和32年(く)25号 決定

少年 F(昭和一二・三・一二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立理由の要旨は京都保護観察所は抗告人の母からの訴えにもとずいて事件を京都家庭裁判所に通告し同裁判所は抗告人を特別少年院に送致する旨の決定を言渡したが抗告人の母はもつぱら他人の意見に従つて保護観察所に訴えたのであつて自己の真意から訴えたものでなく家庭裁判所において係官に対し抗告人を引取らない旨申述したのも他人の意見に追随したのである。このような事情の下に言渡された原裁判により抗告人の将来が左右されることは到底堪え難いのでここに抗告をした次第であるというに帰着する。

よつて按ずるに抗告人に対する京都家庭裁判所少年保護事件記録によると抗告人は昭和三一年一〇月八日同裁判所において保護観察処分に付せられ京都保護観察所の保護観察の下に保護司Hの指導監督を受けていたが勤労意欲乏しく無為徒食の生活を続けその間保護司から示された遵守事項保護者K子(実母)から与えられた注意事項を守らず母及び兄の衣類家具等を勝手に持出して入質し麻雀や飲酒の費用に浪費する等の非行にでたため抗告人の母は抗告人の補導監督の措置に窮した結果昭和三二年四月二八日京都保護観察所に相談したこと、同観察所は抗告人及び同人の母につき抗告人の生活態度、平素の行状等を聴取した上少年法第三条第一項第三号の事由があるものと認め犯罪者予防更生法第四二条第一項の規定により同年五月二日事件を京都家庭裁判所に通告したこと同裁判所の審判手続において抗告人の母が係官に対し抗告人がその生活態度を改めない限り自分の力では到底保護監督する自信がないため引取りたくない旨申述し担当保護司もまた抗告人は素行不良で保護観察の効果が上らないのみならず保護者に保護意欲及び保護能力なくその補導に手を焼いている現状からしてこの際強力な性格矯正の必要がある旨意見を開陳したこと同裁判所が抗告人につき保護観察期間中における行状等を聴取した後抗告人は保護者の正当な監督に服しない性癖がありまた自己の徳性を害する行為をする性癖もあつてその性格及び環境に照らし将来罪を犯しまたは刑罰法令に触れる行為をする虞あるものと認め在宅補導の余地なく施設に収容して団体的規律により性格の矯正を図る要あるものとし少年法第二四条第一項第三号等により抗告人を特別少年院に送致する旨及びその収容期間を決定の日から昭和三三年五月三一日までと定めた保護処分決定を言渡したことが認められるのである。論旨は抗告人の母の保護観察所に対する相談ないし家庭裁判所係官に対する申述はその真意に出たものでなく他人の意見に追随したものである旨主張するが記録上さような事実は認め難く却つて前記認定の諸事情から考察すると抗告人の補導監督のため保護者としてなすべき措置に窮した結果の相談でありまた抗告人の生活態度に徴し到底補導監督する能力のないことを自認した心情を如実に示す申述であることが窺われるのである。ところで抗告人に原決定の示すような非行及び性癖があつてその性格環境に照らし将来罪を犯しまたは刑罰法令に触れる行為をする虞のあることは記録中の諸資料に徴し昭らかであるから保護観察所の通告処分は適法でありまた家庭裁判所が言渡した原決定に重大な事実誤認の廉はないのみならず特別少年院送致の保護処分をもつて著しく不当な処分とも認め難いのである。これを要するに原決定には少年法第三二条所定の事由がないから本件抗告は理由がない。

よつて同法第三三条第一項に従い主文のとおり決定する。

(裁判長判事 吉田正雄 判事 山崎寅之助 判事 大西和夫)

別紙(原審の保護処分決定)

主文及び理由

主文

本人を特別少年院に送致する。

この収容期間を本決定の日より昭和三三年五月三一日までと定める。

理由

(事実)

本人は昭和三一年一〇月八日住居侵入保護事件で保護観察処分を受け、京都保護観察所の保護観察のもとに、H保護司の指導監督中の者であるが、保護者である実母並びにH保護司の再三の注意にもかかわらず、全くこれに従わず、保護観察中の遵守事項に違反し、

(一) 勤労意欲なく、定職につく努力を怠り、真面目に働かない。

(二) 毎日のように、麻雀屋に出入りし金銭をかけて麻雀にふけり、そのため無断外泊を重ねている。

(三) 金に困ると自分の物はもとより実母実兄などの衣類などを手当り次第に持出して入質する等の非行を繰返し、もつて保護者の正当な監督に服しない性癖があり、また自己の徳性を害する行為をする性癖があつてその性格及び環境に照して将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のあるものである。

(法令の適用)

犯罪者予防更生法第四二条第二項

少年法第三条第一項第三号イ及びニ

(情状)

一、資質的負因-知能は正常であるが、感情昂揚性と自己顕示性の強い精神病質者である。即ち、思慮浅く、社会性に乏しい上、自意識並びに虚栄心強く、他との協調性を欠いて恣欲的行動に走り易く、しかも批判、反省的なところは全くなく、自己の欲求障害にあうと容易に激昂し、または自棄的になる虞すら認められる。

二、環境的負因-家庭は実父亡く、経済的に貧困で、実母は仕事に忙しくて監督が行き届かない上、溺愛気味で保護能力に乏しく、実兄は本人との折合悪く感情的にも対立しており、両名とも本人の不行跡に手を焼いている現況にある。

三、非行歴-上記保護観察処分の外、暴力行為等処罰に関する法律違反、窃盗などで再度審判をうけ、また道路交通取締法違反で再三取調を受けている。

四、予後-保護観察中の不良な成績並びに上記の諸負因に照らし、在宅補導を加える余地はすでになく、施設に収容し、団体的規律により性格の矯正を図る必要がある。

そこで少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条に則り、本人を特別少年院に送致することとし、また犯罪者予防更生法第四二条第三項に則りその収容期間を本決定の日より昭和三三年五月三一日までと定め、よつて主文のとおり決定する。(昭和三二年五月二七日 京都家庭裁判所 裁判官 栗原平八郎)

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